本当かい!?

生物学的立場からすると、人生は一篇の詩に近いように思う。人生には人生独特のリズムもあり、脈搏もあり、生長と老衰の内部的周期もある。
無心の幼年時代から始まり、成年者の社会に適応してゆこうと焦るぎこちない青年期がそれに続く。そこには青春の悩ましさと愚かさがある。理想と野心がある。
やがて激しい活動の成年期に達し、経験を利し、社会と人間性をさらに深く学ぶ。
この中年期に入ると、幾分緊張が緩んで、くだものが熟れ、酒が熟れるように性格も成熟してくる。そして今までよりも腹が大きくなり、冷笑を理解し、同時に人生をだんだん暖か味をもって眺めるようになる。
次いで人生の黄昏時になると、内分泌腺の分泌は不活発になる。もしその時代に、われわれが本当の老年哲学を持ち、それに従って生き方を定めていくならば、それは平和、平安、閑適、知足の時代である。
 最後に生命は消え、永遠の眠りに入り、またと目覚めない。


林語堂  生活の発見 第二章 人間観の種々相 四 人生これ一篇の詩
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